砥石の評価

刃物を研ぐようになって随分と長い年月が過ぎた。相変わらず研ぎの技術はあまり進歩しないが、多少なりとも代金を頂いて他人様の刃物を研ぐようになり、自分の好き勝手に研いでいたときとは違う真剣さが自分の研ぎを変化させた部分もあると思う。

そんな中で時間の経過とともに砥石の好みも変わって行ったように思う。最初の頃はいい悪いなんて全くわからずに、巷で良しとされている砥石を選んで満足していたが、技術も知識もないので、とにかく仕上げ砥石で研げば良い刃先なると思い込んで何十分も無駄に研いだり、「良い仕上げ砥石」といわれる物を手に入れては、「これは意外と刃がつかない」「これはすごい!」などと的外れな感想と気がつかずに使っていた。

そんな使い方なので仕上げ砥石、超仕上げ砥石ばかりが手元に増えていく。30、40と増えていくと次は「仕上げ砥石を活かすにはその前に使う中砥が重要」と気が付く。すると良い中砥を探してあちこち手を出していく。

そしてまた砥石が増え続ける。中砥も10、20と増えていき、それなりに好みもあって同じ砥石が増えていくが、そこは天然砥石.仕上げ砥石ほどではないが同じ種類の砥石でもやはり良い悪いはある。次第に「それなら合成砥石でいいじゃん」となって、しばらくは合成中砥を使い始めた。合成砥石が増えないのは、同じ性質のものがいつでも手に入るため。

合成砥石はよく刃物を下ろせる。が、厚みがないものが多いので減りも早い。1年に2〜3本くらいはなくなってしまう。まあ価格も天然に比べれば安いので・・・とは、だんだんいかなくなってきた。それでもいろいろ使ううちに、好みの合成中砥が見つかりやたらとあちこち手を出すことはなくなってきた。

しかし研ぎの年数を重ねると、一番大事なのは荒砥だと気が付く。例に漏れず合成荒戸もいろいろ手を出すが、荒砥はとにかくよく減る。そんな中に天然荒砥に古い「大村砥」というかつては「荒砥といえば大村砥」といわれるものがあると知った。
大村砥は現在でも流通しているが、古いものとは産地も性質も全然違い、古いものはよく下ろすが深い傷が入らない。深い傷が入らずによく研げるので中砥に移行した時に傷痕を消すのが早い。要は時間短縮ができる。合成荒砥だとランダムに入る深い傷がなかなか消えず、目に見えなくなる程度でごまかすと必ずそこから刃こぼれが起こる。
そんな経験を積みつつ、最近は研ぐ刃物の材質などで使う砥石を分けるようになった。気がつけば自分なりに砥石の良い悪いに気が付くようになってきた。研ぎが上手くなってきたとは言いにくいのが残念だが、まあ仕方ない。

で、同様に以前はよくわからなかった仕上げ砥石も好みが出てきて、手持ちの中には飛切り優れた仕上げ砥石もいくつか見つかった。以前はあまり良くないと思っていた石の中にも優れた石が見つかるのは、自分の研ぎが変化しているということだろう。
「これはいらない」と手放した砥石も多いが、その中にも今思えば優れた砥石があって残念に思う。まあ仕方がない。高い授業料とまでは言えないし、それも経験だ。しかし天然砥石は値段やサイズでは本当に良し悪しが分かり難い。
基本的には高い砥石には良い物が多いが、自分でも名刺サイズの6ミリ厚ほどの仕上げ砥石があるが、これは5万、10万出すといわれても今では手放したくないほど優れた仕上げ砥石で、逆に考えれば小さいが故に質の良い部分だけを切り取ってあるとも言えるのだろう。砥石の世界はこれだから面白い。